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A:昨日(2016年1月27日)の琉球新報に、沖縄県辺野古埋立の承認取消に対する国の不服審査請求は法的に不適切というのが行政法学者の多数意見という記事が出てたけど、読んだ?

B:読んだよ。自治法や行政法の判例百選執筆者257名にアンケートを送り、回答者35名中31名が違法性が高いと回答してるわけだから、専門家の大多数はおかしいと思っているかもね

A:国の説明は適用条文を丁寧に示してるから違法とは思えないけど

B:国に対する都道府県の埋立承認(公有水面埋立法第42条)業務は法定受託事務(同法第51条)だから、法定受託事務に対する行政不服審査(地方自治法第255条の2第1項)を申し出てもおかしくないと思ってるんだろうけど、行政不服審査法の目的は公権力から国民の権利や利益への不当な侵害を防ぐことなので、最強の公権力である国を国民と同列に扱う必要がある場合でなければ、国は不服審査請求をすることができない仕組みなんだな。それは国自身が認めてる。国は公有水面の埋立承認で国を国民と同列に扱う必要があると主張してるけど、多くの専門家は明らかに無理があると思ってるんだね

A:国を国民と同列に扱う必要がある場合ってどういうこと?

B:国は明らかに一般私人とは立場が違うよね。これを「固有の資格」というんだけど、「固有の資格」で埋立承認を求めた場合だと不服審査は請求できないんだよ。でも、例えば民間と同じバス事業を行う場合には、民間のバス会社と同じ立場、つまり国だからといって法的に特権も優遇も無いので、「国民と同じように不服審査請求で文句は言ってね」というのが国を国民と同列に扱う必要がある場合になるわけ。バス事業者の権利と利益は国も民間も同じでしょ。だから民間と同じやり方で救済しても問題無いですよねってこと

A:辺野古の公有水面埋立の場合、保護すべき権利や利益は国も国民も同じなの?違うような気がする

B:公有水面埋立法上、国には国民と区別すべき特権も優遇措置もないので同じ扱いにしてよというのが国の主張だけど、国民が米軍基地内の制限水域を埋立させてくれと申請したら認められないのは明らかだから、不服審査請求をしても裁判所に訴えても門残払いは確実。門前払いの理由も明らか。「立場をわきまえろ!」でしょ。これ以上の説明は不要だと思うけど

A:もしかして、国を国民と同列に扱うって国にとってはとても損なことじゃないの?

B:気がついたね。そのとおり。でも、地方分権の嵐で国は地方と同列に置かれたんだよ。そのために、国は沖縄県の行政処分を尊重する義務を負った(地方自治法第245条の3)。だから国がやれることは、沖縄県の取消処分を撤回するよう勧告し(同法第245条の8第1項)、従わない場合には指示し(同法第245条の8第2項)、それでも従わない場合には高等裁判所に撤回命令を出してもらい(同法第245条の8第3項)、それでも従わない時に初めて沖縄県の取消処分を代執行で国が自ら撤回する(同法第245条の8第8項)という方法だけ

A:救済手段があるのに、どうして国はそれを使わないの?

B:沖縄県の取消処分を代執行で国が自ら撤回するまで長期間埋立工事がストップするからさ。国としてはこれだけは避けたかったので、違法といわれるのを覚悟で都合のいい条文をあえて利用したのさ。ただ、執行停止状態では都合が悪いと思ったのか、後になって地方自治法245条の8第3項に基づく取り消しの取り消しを命じる旨の裁判を起こしてるけど、事実上取り消されている処分に対する代執行の権利を裁判所から事後で得ようとするところが禁止されている自力救済隠しだね

A:沖縄県が裁判沙汰にしたから、遅かれ早かれ違法だと判断されて国が敗訴するんじゃないの?

B:違法と判断されて国が敗訴するようなことがあっても、敗訴までに辺野古に普天間の米軍基地が移設してれば国は満足だよ。だらだらと最高裁まで裁判をやるために、国はあえて争点だらけにしたのかもしれないよ

A:国が敗訴したら、遡って糾弾されるんじゃない?議員も公務員も首を洗って待ってる輩じゃないと思うけど

B:ぴったんこカンカンだね。国は敗訴するつもりはないよ。裁判での国の狙いは沖縄県の門前払い。それができれば裁判で国の悪行が暴かれることもないし、沖縄県を悪者にできるしで大満足。沖縄県の暴挙をよくぞ食い止めたって評価になるよ

A:鉄拳とブルドーザーで米軍基地を建設してきた米国のやり方と日本国のやり方は変わらないけど

B:強権という意味ではそうだね。国に従わない地方自治体が出てきた場合には、同じ手法で屈服させられるから、被害者は沖縄県だけに止まらないという意味では全国的な問題だよ。仏作って魂入れずの地方分権制度だから、地方の受難はまだまだ続くね

===本文で引用した条文===
公有水面埋立法
第四十二条  国ニ於テ埋立ヲ為サムトスルトキハ当該官庁都道府県知事ノ承認ヲ受クヘシ
○2 埋立ニ関スル工事竣功シタルトキハ当該官庁直ニ都道府県知事ニ之ヲ通知スヘシ
○3 第二条第二項及第三項、第三条乃至第十一条、第十三条ノ二(埋立地ノ用途又ハ設計ノ概要ノ変更ニ係ル部分ニ限ル)乃至第十五条、第三十一条、第三十七条並第四十四条ノ規定ハ第一項ノ埋立ニ関シ之ヲ準用ス但シ第十三条ノ二ノ規定ノ準用ニ依リ都道府県知事ノ許可ヲ受クベキ場合ニ於テハ之ニ代ヘ都道府県知事ノ承認ヲ受ケ第十四条ノ規定ノ準用ニ依リ都道府県知事ノ許可ヲ受クヘキ場合ニ於テハ之ニ代ヘ都道府県知事ニ通知スヘシ

第五十一条  本法ノ規定ニ依リ地方公共団体ガ処理スルコトトサレタル事務ノ内左ニ掲グルモノハ地方自治法第二条第九項第一号 ニ規定スル第一号 法定受託事務トス
一  第二条第一項及第二項(第四十二条第三項ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)、第三条第一項乃至第三項(第十三条ノ二第二項及第四十二条第三項ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)、第十三条、第十三条ノ二第一項(第四十二条第三項ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)、第十四条第一項(第四十二条第三項ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)、第十六条第一項、第二十条、第二十二条第一項、同条第二項(竣功認可ノ告示ニ係ル部分ニ限ル)、第二十五条、第三十二条第一項(第三十六条ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)、第三十二条第二項、第三十四条、第三十五条(第三十六条ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)、第四十二条第一項並第四十三条ノ規定ニ依リ都道府県又ハ地方自治法第二百五十二条の十九第一項 ノ指定都市ガ処理スルコトトサレタル事務
二  第十四条第三項(第四十二条第三項ニ於テ準用スル場合ヲ含ム)ノ規定ニ依リ市町村ガ処理スルコトトサレタル事務

地方自治法
(関与の基本原則)
第二百四十五条の三  国は、普通地方公共団体が、その事務の処理に関し、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与を受け、又は要することとする場合には、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。
2  国は、できる限り、普通地方公共団体が、自治事務の処理に関しては普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち第二百四十五条第一号ト及び第三号に規定する行為を、法定受託事務の処理に関しては普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち同号に規定する行為を受け、又は要することとすることのないようにしなければならない。
3  国は、国又は都道府県の計画と普通地方公共団体の計画との調和を保つ必要がある場合等国又は都道府県の施策と普通地方公共団体の施策との間の調整が必要な場合を除き、普通地方公共団体の事務の処理に関し、普通地方公共団体が、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち第二百四十五条第二号に規定する行為を要することとすることのないようにしなければならない。
4  国は、法令に基づき国がその内容について財政上又は税制上の特例措置を講ずるものとされている計画を普通地方公共団体が作成する場合等国又は都道府県の施策と普通地方公共団体の施策との整合性を確保しなければこれらの施策の実施に著しく支障が生ずると認められる場合を除き、自治事務の処理に関し、普通地方公共団体が、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち第二百四十五条第一号ニに規定する行為を要することとすることのないようにしなければならない。
5  国は、普通地方公共団体が特別の法律により法人を設立する場合等自治事務の処理について国の行政機関又は都道府県の機関の許可、認可又は承認を要することとすること以外の方法によつてその処理の適正を確保することが困難であると認められる場合を除き、自治事務の処理に関し、普通地方公共団体が、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち第二百四十五条第一号ホに規定する行為を要することとすることのないようにしなければならない。
6  国は、国民の生命、身体又は財産の保護のため緊急に自治事務の的確な処理を確保する必要がある場合等特に必要と認められる場合を除き、自治事務の処理に関し、普通地方公共団体が、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち第二百四十五条第一号へに規定する行為に従わなければならないこととすることのないようにしなければならない。

(代執行等)
第二百四十五条の八  各大臣は、その所管する法律若しくはこれに基づく政令に係る都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項から第八項までに規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができる。
2  各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに同項の規定による勧告に係る事項を行わないときは、文書により、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを指示することができる。
3  各大臣は、都道府県知事が前項の期限までに当該事項を行わないときは、高等裁判所に対し、訴えをもつて、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。
4  各大臣は、高等裁判所に対し前項の規定により訴えを提起したときは、直ちに、文書により、その旨を当該都道府県知事に通告するとともに、当該高等裁判所に対し、その通告をした日時、場所及び方法を通知しなければならない。
5  当該高等裁判所は、第三項の規定により訴えが提起されたときは、速やかに口頭弁論の期日を定め、当事者を呼び出さなければならない。その期日は、同項の訴えの提起があつた日から十五日以内の日とする。
6  当該高等裁判所は、各大臣の請求に理由があると認めるときは、当該都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判をしなければならない。
7  第三項の訴えは、当該都道府県の区域を管轄する高等裁判所の専属管轄とする。
8  各大臣は、都道府県知事が第六項の裁判に従い同項の期限までに、なお、当該事項を行わないときは、当該都道府県知事に代わつて当該事項を行うことができる。この場合においては、各大臣は、あらかじめ当該都道府県知事に対し、当該事項を行う日時、場所及び方法を通知しなければならない。
9  第三項の訴えに係る高等裁判所の判決に対する上告の期間は、一週間とする。
10  前項の上告は、執行停止の効力を有しない。
11  各大臣の請求に理由がない旨の判決が確定した場合において、既に第八項の規定に基づき第二項の規定による指示に係る事項が行われているときは、都道府県知事は、当該判決の確定後三月以内にその処分を取り消し、又は原状の回復その他必要な措置を執ることができる。
12  前各項の規定は、市町村長の法定受託事務の管理若しくは執行が法令の規定若しくは各大臣若しくは都道府県知事の処分に違反するものがある場合又は当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、本項に規定する措置以外の方法によつてその是正を図ることが困難であり、かつ、それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときについて準用する。この場合においては、前各項の規定中「各大臣」とあるのは「都道府県知事」と、「都道府県知事」とあるのは「市町村長」と、「当該都道府県の区域」とあるのは「当該市町村の区域」と読み替えるものとする。
13  各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村長の第一号法定受託事務の管理又は執行について、都道府県知事に対し、前項において準用する第一項から第八項までの規定による措置に関し、必要な指示をすることができる。
14  第三項(第十二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の訴えについては、行政事件訴訟法第四十三条第三項 の規定にかかわらず、同法第四十一条第二項 の規定は、準用しない。
15  前各項に定めるもののほか、第三項の訴えについては、主張及び証拠の申出の時期の制限その他審理の促進に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。

第二百五十五条の二  他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、法定受託事務に係る処分又は不作為に不服のある者は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める者に対して、行政不服審査法 による審査請求をすることができる。
一  都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分又は不作為 当該処分又は不作為に係る事務を規定する法律又はこれに基づく政令を所管する各大臣
二  市町村長その他の市町村の執行機関(教育委員会及び選挙管理委員会を除く。)の処分又は不作為 都道府県知事
三  市町村教育委員会の処分又は不作為 都道府県教育委員会
四  市町村選挙管理委員会の処分又は不作為 都道府県選挙管理委員会

H28年4月1日施行の全部改正行政不服審査法
 (処分についての審査請求)
第二条 行政庁の処分に不服がある者は、第四条及び第五条第二項の定めるところにより、審査請求をすることができる。

 (不作為についての審査請求)
第三条 法令に基づき行政庁に対して処分についての申請をした者は、当該申請から相当の期間が経過したにもかかわらず、行政庁の不作為(法令に基づく申請に対して何らの処分をもしないことをいう。以下同じ。)がある場合には、次条の定めるところにより、当該不作為についての審査請求をすることができる。

(適用除外)
第七条 次に掲げる処分及びその不作為については、第二条及び第三条の規定は、適用しない。
一~十二号省略
2 国の機関又は地方公共団体その他の公共団体若しくはその機関に対する処分で、これらの機関又は団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為については、この法律の規定は、適用しない。

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