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今月実施される衆院選挙に向けて、自民党のマニフェストが公開されましたので、「安心な国民生活の構築」の事前評価をしてみたいと思います。ここで使用する事前評価は、市町村が各種施策に予算をつける際に行われる事前評価の手法を用います。

自民党が出して来た施策は「国民の安心・安全のための社会保障制度の確立」です。その目的は、「年金、医療、介護等について、・・・暮らしの安心を支えるセーフティネットとしての機能を果たし、将来にわたって国民にとって安心、信頼できるもの」にすることです。目的に問題はありませんが、ここで提言すべきは目的実現を阻む課題の説明であって、争点にならない制度の目的をあえて出してくる必要はありません。評価する側としては、「作りなおしてこい」で終わりです。

さて、問題は目的の実現手段です。「社会保障制度の一体的見直しを進め・・・社会保障番号・カードを平成23年度中を目途に導入し、年金をはじめとする社会保障サービスの信頼性と透明性を向上させ・・・社会保障制度を真の国民の立場に立って検討する場として『社会保障制度改革国民会議(仮称)』の設置に向けた法整備を進める」とあります。結論から言えば、目的実現の手段と呼べる代物ではありません。社会保障サービスの信頼性と透明性を向上させることが、暮らしの安心を支えるセーフティネットとしての機能を担保することにはならないからです。年金の計算根拠を正確に示し、法で保障された年金額を支払えば、社会保障の自己負担や税金ばかりが増える年金受給者に対し何の安全を保障したことになるのでしょうか。

しかも、年金受給者全体で痛みを分かち合うという仕組みでもなく、新規の年金受給者の年金額を抑制して批判をかわし制度の欠陥を埋めようとしています。こんなやり方を見抜けないほど国民は馬鹿だとでも思っているのでしょうか。年金受給者間の年金格差は、すでに大きな社会問題です。

「生活費を賄えるだけの年金は出せませんよ(出すとは約束してないですよ)」という根本的な制度欠陥を解決せずに、個々の政策を提言することになんの意味があるのでしょうか。

「社会保障制度改革国民会議(仮称)」が国民の立場に立ったとしても、実現力を持たなければこれまでの民意は拝聴のアリバイづくり会議と同じです。ポーズだけで国民が許してくれる時代じゃないと思いますよ。これらのことを是非説明してください。その説明があって初めて社会保障カードの事前評価ができるのです。

この政策の最大の欠陥は、セーフティネットネットの概念自体が不充分なことです。年金、医療、介護のセーフティネットは、国民として憲法で保障された文化的で最低限の生活が具体的に約束されていることです。その上で、年金だけで暮らせない人に収入の道を拓いたり、病気にならない国民づくりやねたきりにならない老人づくり、具体的には未病対策や健康支援を行うと同時に国民一人一人が健康状態を把握し増進しようとする意欲に具体的な手助けをすることが真のセーフティネットだからです。年金受給者になってから、病人になってから、寝たきりになってからという事後のセーフティネットは破綻のリスクが大きすぎます。国民も幸せではありません。この点からも、このマニフェストは「作り直して来い」と言うしかない代物です。市町村の方がもっとましなマニフェストをつくれます。住民の生活実態を傾向も含め具体的に把握できているからです。

国の政策最大の欠点は、事前評価で効果が小さいと容易に判断できる愚策を全国一律に強制することです。政策は地方に任せ、結果責任(失敗分)を国と地方でどう配分するかのルールだけを決めておけばいいのです。例えば、生活保護者を出さないためのあらゆる対策を地方は自由に行えるとし、生活保護者が出た場合には、保護費を国と地方で1対1で按分するとか、縦割りの国の補助金等を自治体の成績結果に応じて配分するとか、これまでの政策方針をスクラップにする大転換が必要です。国民個人のやる気や自治体のやる気を刺激し、結果に対する評価を奨励金という形で持続力を与え、何が起こっても安心した暮しが約束されていると国民が実感できる不動のセーフティネットの確立に、充分すぎる予算の確保を急ぐべきです。

「この国は危機に瀕しています。だから皆さんの力を貸してください。皆さんが力尽き倒れた場合には国が全面的にお世話をします。ですから、この痛みを共に分かち合い、子供たちのために共にこの難局に立ち向かってください。」と、総理はお願いすべきではないでしょうか。

以下、関係図書の紹介です。

お粗末な日本の社会保障制度

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